前回では、『Society5.0に向けた進路指導~個別最適化時代をどう生きるか』を紹介し、N高等学校が自分のやりたいことができるようになる仕組みについて紹介しました。

N高に来るとなぜやりたい事ができるようになるのか?

この本の後半でも述べられているのですが、今後、公立学校の統廃合が進むにつれ、地域格差を防ぐためにもローカルな学びの場が重要になってきます。この本でも統廃合が進んでいる地域ではフリースクールがその受け皿となり、フリースクールに通いながら、子ども達はN高等学校等のコンテンツを受けるようになると述べられています。

そのような環境を作るためには、ローカルで活躍できるローカルエリート、またはローカルエリートが活躍できるような仕組みが重要になってきます。瀬戸ツクルスクールでは、独自の教育によって、ローカルエリート(個人事業主)を育成しようとしています。

https://setotkrschool.jimdofree.com/

こういった地域格差を防ぎ、地元を守るためにはどのような組織、仕組みを作れば良いのだろうかと気になりました。そこで、西川研究室でもよく話題に上がるドラッガーの『非営利組織の経営』についてまとめて見ました。

『非営利組織の経営』の流れは以下です。

・使命が第一
・使命から成果へ
・成果を上げるための人間関係
・人事と人間関係
・自己開発

使命が第一

ドラッガーは評価されるような非営利組織を作る上で重要な事として、リーダーが使命を定めることと述べています。

 非営利機関は、人と社会の変革を目的としている。したがって、まず取り上げなければならないのは、いかなる使命を非営利機関は果たしうるか、いかなる使命は果たし得ないか、そして、その使命をどのように定めるかという問題である。というのも、非営利機関に対する最終的な評価は、使命の表現の美しさによって行われるのではないからである。それは、行動の適切さによるからである。

 「非営利組織機関の役員からよく尋ねられるのは、リーダーとしての要件は何かという事である。また、リーダーシップだけで十分であり、それが目的という感じさえする。これこそ、過てるリーターシップといえよう。自己への関心を基本にすえるリーダーは、間違ってリードする。今世紀、最もカリスマ的な3人のリーダーほど人類を痛めつけた3人組はいない。ヒトラー、スターリン、そして毛沢東である。リーダーのカリスマ性は重要ではない。リーダーの使命が重要である。したがって、リーダーとして真っ先になすべき事は、よくよく考え抜いて、自らのあずかる機関が果たすべき使命を定める事である」

つまり、人と社会の変革を目的としている非営利団体が適切な行動をとり、評価されるためには、リーダーが適切な使命を設定しなければならないという事です。最近ではよくリーダーシップ教育についての議論が盛んですが、この観点抜け落ちていると、間違ったリーダーを生んでしまう可能性があります。

そして、ドラッガーはその使命は具合的な行動目標に結びつくものでなければならないと述べています。

使命の表現は、それに基づいて現実に動けるものでなければならない。そうでなければ。単なるよき意図の表現に終わってしまう。使命の表現は、その機関が現実に何をしようとしているのかに焦点を絞ったものでなければならず、その組織に関わる一人一人が、目標を達成するために自分が貢献すべき事はこれだ、と言えるようなものでなければならない。

具体的な例を見てみましょう。例えば、ドラッガーはある病院の救急治療室にある「患者を安心させることがわれわれの使命である」という標語に対し、「これは、簡潔にして明瞭、かつ直截な使命の表現である。」と表現しています。なぜなら、その使命により、医療スタッフは具体的な行動に移すことができるからです。気が動転している患者に対しては、「ぐっすり眠りさえすれば治る」と助言できます。また、「安心させる」という使命に基づき、患者は誰でも1分以内に、然るべき医者の診察を受けられるようにするという目標も立てられます。

逆に、良くない使命の設定として「健康を守ることが使命である」とした病院の例をあげています。

私の知っている病院のほとんどが、「健康を守ることが使命である」と謳っている。しかし、これは間違っている。病院は健康を扱うところではない。病気を扱うところである。タバコを吸わず、酒を飲み過ぎず、早めに就寝し、体重に気をつけるなどというのは、個々人がやるべきことである。健康を守ることに失敗して、初めて病院が出てくる。この使命がもっとまずいのは、「健康を守ることが使命である」といったところで、では病院として何をすべきなのか、どのような行為をすればいいのか、誰にも分からないからである。

このように、人と社会の変革を目的としている非営利組織が成果を出すためには、「適切な使命を設定する事」が重要です。適切な使命を設定することで、具体的で、適切な行動が生まれ、それが成果へと結びつくのです。なので、非営利組織のリーダーがまずすべき事は適切な使命を設定しましょうというところからこの本はスタートします。

適切な使命を設定できている学校はほとんどない?

こうしてみると、私が知る限りですが、適切な使命を設定できている学校はほとんどないのではと感じます。それぐらい使命を設定する事は難しく、重要なことであると感じます。

西川先生が良い学級かどうかをみるときに、その学級の生徒に「学級目標はなに?」と聞くそうです。つまり、良い学級であれば、その学級の生徒は学級目標の内容や意味を理解しているのに対し、良い学級目標でなければ、その生徒は学級目標を答えられないからです。

これは職員集団でも同じで、ある教頭が西川先生に「うちの職員は学校目標を言えないんですよ!」と憤慨していたそうです。しかし、これはドラッガーに言わせると、適切で簡潔な使命(学校目標)を設定できていないだけの問題です。

逆に適切で分かりやすい使命を設定できている学校は生徒数が激増しています。

「N高はなぜ生徒数100万人を目指すのか」
http://blog.livedoor.jp/ryou5885/archives/23170598.html

西川研でもそのあたりの使命の設定が上手くデザインされているので、会議をしても運営にしても、ストレスなく行うことができています。

このように、適切な使命を設定できる非営利組織は適切な行動をとり、成果を出すことができ、適切な使命を設定できていない非営利組織は、具体的な行動にまで移すことができず、成果をあげることができなくなります。なので、ドラッガーはこの本で「使命が第一」という話からスタートさせているのですね。

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