「断絶への航海」は、理想的な人付き合いの形を学ぶ上でもとても良い本だと思います。
少しネタバレになるのですが、ケイロン社会のユートピアを支えているのは「しっぺ返し」的な社会であるとあとがきに書かれています。
「しっぺ返し」的な社会とは、「最初の出会いでは協調する。2回目以降の出会いでは前回の相手をまねる」という関係性が成立する社会のことを言います。つまり、相手が協力すれば協力するし、裏切ればこちらも裏切るということです。
断絶への航海で描かれるケイロン社会では、この「しっぺ返し」的な社会こそが、ケイロンのユートピアを支えています。
「ケイロン人はみな論理的である。協調を重視する彼らのモラルは、決して政治思想や、ましてや宗教などという非論理的なものが基盤になってはいない。彼らは利己主義者であり、自分が最大の利益を得るためにはどんな戦略が有効かを理解できる能力を持っているのだ。」
「自分以外の大多数が「しっぺ返し」戦略を選択している状況では、自分も協調的な戦略を選択するのが有効である。そして、ケイロン人は、他のケイロン人も自分と同じく論理的に思考し、有効な戦略を選択することを知っている。だからこそ、裏切り行為や礼儀正しくないという行動をしないのだ。」
協調を選択しない人への対応はどうするべきか
しかし、現実世界では初めから裏切り行為をしたり、協調をしないという合理的でない人もいます。そのような場合はどうすればよいのでしょうか?その点についても、あとがきで書かれています。
「もちろん、中には少数ではあるが、協調を選択しない者もいる。18章のジェイとペンキ屋の会話にあるように、彼らは最小限の保護を受けはするが、他人に迷惑をかけないかぎり、ただ放置される(ここでもケイロン人は相手の手をまねるだけである)。しかし、他人に危害を加える者はそうはいかない。彼らを待ち受ける運命は16章でケイロン人の口から語られる。「ふつうは結局誰かがそいつを撃ち殺すことになりますね。だからそれほど大問題にまで発展しないですむんです」」
「警察や法律が存在せず、誰もが他人を撃ち殺されることが許される社会!これはショッキングであはるが、筋は通っている。ケイロン人は個人が他人に報復する権利と能力を有している。これは「しっぺ返し」が機能するのに必要不可欠なのだ。」
「そんなのは物騒ではないかと不安に思うのは、我々がケイロン人のように思考することに慣れていないからだ。ケイロンでは金目当ての犯罪など起こりようがないし、危険な異常者は早いうちに射殺されるので、じきに沙汰される。ケイロンにおける殺人や傷害事件の多くは、感情のもつれによるものだろう。だったら撃ち殺されないようにする方法は簡単ーー他人に恨まれないよう、協調して生きることだ。」
このように、ケイロンの社会では、協調をせずに他人に危害を与える人間というのは、自然に沙汰されます。そのため、生きていくためには協調することが必要不可欠なのです。それゆえに政府も法律も存在しないのです。
この「しっぺ返し」という付き合い方は、人付き合いを考えるうえでも、とても重要だと考えます。もし、そのような「しっぺ返し」を多くの人が選択をする職員集団ができれば、自然と協調を選択するような集団となり、仕事もスムーズにできるのではないかと思います。
生徒集団においてもこの「しっぺ返し」を選択する集団になれば、教師の介入がなくとも、生徒は自然と協調をして行事を進めていくと思います。
このように、理想的な人付き合いを学ぶ上でも「断絶への航海」は非常に良い本だと思うので、興味のある方は是非読んでみてください。