自主性を大事にする教師

 前回では、社会で当たり前に構成されている「情報の三階層」を紹介しました。しかし、教室ではこういったことをしようとすると教師は「静かにしなさい!」と言います。そこで、「教師は生徒の邪魔をしているのではないか?」という仮説を立てるとこまで紹介しました。

一方で子ども達が自然的に学び合う集団に成長できるクラスもあります。そのヒントとして自主性を大事にするある教師を3ヶ月かけて観察した研究が紹介されます。

皆さんもどういった点が普通のクラスと違うのか考えながら読んでみてください。ちなみに今回の研究は最初に紹介した仮説は設定せずに行なっています。

「筆者らは優れた理科実践者の実践から、よりよい理科授業の姿を探ろうと思い、3ヶ月間の授業観察を行った(西川、萩原 2001)。平常の理科授業分析の場合、観察者(研究者)が何らかの仮説を設定し、その仮説に基づいて分析を行う。

しかし、この授業観察では観察者は何の仮説も設定せず、その授業から得られる優れた理科授業の特質を明らかにすることを目的とした。クラス替え直後のクラスは児童・生徒間での新たな社会構造の構築が行れる。

したがって、クラス替え直後のクラスを観察した場合、観察に現れた姿が、担任教師の特質によるものか、クラス替えによるものかを明らかにすることが難しい。そこで、クラスとしては 1年以上たち、4月に担任が変わったクラスを求めた。」

「理科実践者は、複数の理科出身校長から推薦を受けた。その中で、上記のクラスの条件を満たす教諭とそのクラスを観察対象に選んだ。その教師・クラスを 1997 年 4月6日から6月 26 日の3ヶ月間観察した。最初の1週間はすべての時間を観察した。

そのあと 3ヶ月のすべての理科授業を観察した。全ての観察記録はビデオで記録した。総記録は全 45 時間である。ここで、観察対象に関して説明したい。学校は、上越教育大学の近郊に位置する。校長は、かつて上越教育大学附属小学校の理科教師であり、地元の中心的理科教師である。

全校児童は 400名強、教諭数 19名で地域での中規模小学校である。観察対象となった教諭は、年齢が 30代半ば、国立大学教育学部理科コース出身。非常に自由な発想をし、型にとらわれない、児童の自主性を重視する授業を行う。

たとえば、挨拶というものは形式でするものではないとの考えから、形式的に挨拶で始まって挨拶で終わる授業はあまり好きではない。そのため、平常見られる様な、授業前後の挨拶は無い。

この教諭とクラスを3ヶ月観察する中で、筆者らが最も印象的であったのは、学びの集団形成であった。一般クラスの場合、教師から課題が与えられると、特に指示がない限り、一人一人が自身の席で課題を解く。

しかし、6月以降の本クラスの場合、お互いに席を離れて教え合い/学び合う姿が極めて自然であった。そこで、そのような学びの集団の形成時点を特定するため、再度、ビデオ記録を分析した。その結果、6月19日前後に学びの集団が形成されるようになった。

そこで、学びの集団形成以前、移行段階、学びの集団形成以後の、三つの段階に分けた。

学びの集団形成以前

この段階では、遊びの集団が見られる。しかし、学習に関して、児童同士の相互作用は殆ど見られなかった。学習は、対担任とのやりとりか、個人によって行われる。代表的な場面を以下に示す。

05月20日5時限

この時限では、前時限に引き続きモーターカーを制作する。本時限では単三の電池を2個用い、それらをつなぎ、モーターカーが動くよう回路を制作する。理科室を使用したため子どもの席は大机 9つに 4、5人の集団ごとに座っている。

班ごとに分かれて座っているにも関わらず一人で活動している児童が多く、班内における会話も少ない。14人の児童は殆ど一人で活動しており、分からない点のある児童は班内の他の児童ではなく、黒板前の机にいる担任のもとへ、モーターカーをもって尋ねる児童が多い。

また、一人が質問しているときに順番を待っている児童も多数いた。また、その中では 、12 人の児童は、自分の席に戻らず担任の座っている机で制作し始めた。この段階では、学びの集団は見られなかった。

そのような中で、モーターカーを走らせる段階に進んだ児童は、ほぼ同段階に進んだ他の児童と一緒に活動していた。モーターカーを作成するという授業的内容の濃い場面においては、集団を形成しないが、モーターカーを走らせてみるというような遊び的要因が強い場面では集団を形成する。

しかし、この授業において形成した遊びの集団は、まだ自分の集団の仲間が自分と同じ段階に進んでいないためか、普段に形成する遊びの集団とは異なっている集団もあった。また、いくつかの集団が一緒になり、モーターカーを走らせて競争している場面が見られた。

移行段階

移行段階で、学びの集団の萌芽がみられる。この段階では、担任教師の発言をもとに学びの集団が形成された。

○6月13日 5時限

前時限の「不思議発見」では児童が電流について自分が不思議だと感じることをプリントに書き出した。この時限では前時限の続きで、他の友達が どのようなことを不思議に思っているのかを知るために、担任が黒板に板書し、児童がそれを写すという活動をした。

児童はそのあと、自分のもつているモーターカーを実際に動かし、不思議について考える。

児童の考える不思議は①なぜ電池がないと動かないのか②なぜ電池には+と – があるのか③電池には寿命があるのか電池の中はどのようになっているのか⑤なぜ電池の数によってモーターカーの走る速さは変わるのかⒸなぜ電池 2個だと1個のときより速いのかなぜ後ろに走るのか②なぜスイッチを入れると走るのかの8項目である。

担任教師の回りには多数の児童が集まっており、友達に尋ねるよりも、担任に質問する児童が多。16 人の児童は一人で活動していた。一方 、14 人の児童は担任教師に質問しにいった。

しかし、児童の中にはごく少数ではあるが学びの集団と考えられる集団が存在していた。2、3人程度で構成される6つの集団が学びの集団として確認できた。

しかし、学びの集団というよりも分からないところを相談しにいくといった意味合いが強い。そのため、会話は極めて短く単発的なものであった。また、会話終了後はすぐに自分の席に戻り作業を続けていた。

学びの集団形成以後

この段階では、児童の方から積極的に学びの集団形成を行った。

○6月20日

5時限

前時限では「チャレンジしよう3つの不思議」において上記してある電流についての不思議について、実際に試してみることで解決を試みた。この時限では不思議な点をもっと明確に解決するために電流計を用いた。担任教師から集団活動を促す指示があった。そのときのプロトコルを以下に示す。

T: 電流計を使うのは、一人だと大変かもしれないからそのようなときは誰か

と一緒にやってかまいません。では始めてください。

P: △ 君 (0 の名前)、一緒にやろうぜ。

I:V、一緒にやろう。

D: △ 君 (0 の名前)、一緒にやろう。

H:R、一緒にやろう。

以上のように、児童の方で集団を作る行動が見られ、自主的な集団化がクラスの一部に見られた。クラス内は、電流計を用意するまではざわついていたが、そのあと、いくつもの学びの集団と考えられる集団が形成されていった。

2~3人で構成される 13 の集団を確認することができた。一方、集団に属さず一人で活動している児童は 5人である。集団が形成されるにつれて、担任教師の元に訪れる児童の数が減った。

例えば、以下の場合は、以前であったならば担任教師に質問するところだが、児童同士の話し合いで解決している。

何が学びの集団形成を可能としたか?

子ども集団は3ヶ月で学びの集団へと変化していきました。では、何が学びの集団形成を可能としたのでしょうか?次回で詳しく見ていきます。

つづき

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